イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密
ベネディクト・カンバーバッチ、キーラ・ナイトレイ、マーク・ストロング、マシュー・グッド
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1951年、1939年、1927年が並行に進行する編集。
粗筋を単純化するため、映画の展開とは関係なく、時系列を分かりやすく記述する。
まずは1951年(史実では1952年)から。
マンチェスター大学の数学教授であるアラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)の家に強盗が入った。
通報を受けて捜査に訪れたノック刑事(ロリー・キニア)に対し、チューリングは何も盗まれていないと強弁、
刑事らを追い返してしまう。
不審に思ったノック刑事は捜査を続けるが、出てきたのはチューリングが同性愛者である証拠だった。
事件の直前にチューリングと同性愛だった若者が強盗を働いたのだった。
チューリングは逮捕され(当時、同性愛は違法)ノック刑事の尋問を受けることになる。
単なる同性愛事件とは違う何かを感じたノック刑事は、チューリングの論文に関連し、
「機械は思考するか?」(Can machines think?)と問い、
チューリングは驚愕の事実を語りはじめる。
1927年、寄宿舎生活をしていたチューリング(アレックス・ローサー)はいじめられっだった。
チューリングを助けてくれたのは同級生のクリストファー・モルコム(ジャック・バノン)。
チューリングは唯一の友人であるクリストファーといつも行動を共にしていた。
チューリングはクリストファーが読んでいた「暗号」の本に興味を惹かれ、暗号文でやり取りをするようになっていた。
最終学年の1930年、2週間の休暇の後、始業を控えて学生が寄宿舎に戻ってくる中、クリストファーは戻ってこなかった。
暗号文で好きだと告発しようと考えていたチューリングはがっかりするが、程なく校長に呼ばれる。
校長はクリストファーが結核で亡くなったと伝えるが、チューリングは平静を装うのだった。
1939年、ドイツとイギリスは戦争に突入する。
アラン・チューリングはブレッチリー・パークを訪れ、デニストン中佐(チャールズ・ダンス)と面接する。
チューリングが気に入らないデニストンは、追い返そうとするが、チューリングの「エニグマ」の言葉で採用を決める。
採用されたのはチューリングの他、チェスの世界チャンピオン、ヒュー・アレクサンダー(マシュー・グッド)、
ジョン・ケアンクロス(アレン・リーチ)ら5人。
当時まだ知られていなかったMI6のスチュアート・ミンギス(マーク・ストロング)がサポート役だ。
エニグマは当時解読不可能と言われた暗号/暗号器で、平文を暗号化し、暗号を再びエニグマに入れると復号されるものだった。
イギリス軍は毎日膨大な数のドイツ軍の暗号を傍受していたがまったく復号できていなかった。
イギリス軍にはポーランド軍が捕獲したエニグマが1台あったが、復号には複数のローターの組み合わせと順序が必要で、
しかもそれは毎日午前0時に変更される運用となっていた。
毎日最初の暗号傍受の午前6時からその日の深夜0時までにローターの組み合わせと順序を解明しなければ、
その日の解読作業は無駄になってしまう。
ローターの組み合わせ順序を総当たりで解読するには到底人手も時間も足りなかった。
ある程度の推測で正しい組み合わせ順序を見つけるしかなかったが、
チューリングは人手での解読は不可能と考え、他のメンバーと協力せず、一人で解読器の設計にかかりきりになる。
他のメンバーとの協調を重視するデニストン中佐はチューリングを首にしようとするが、
チューリングは自分のやり方が唯一の解決法であるとしてチャーチルに直訴する手紙を書き、
自分がリーダーとして解読器の製作を続けられるようにした。
そして、チームのうち2人を首にし、新聞に難解なクロスワードパズルを載せて要員を募集する。
そして応募してきた人員に自身でも8分かかる暗号解読を6分で解かせるテストを行うが、
唯一の女性であるジョーン・クラーク(キーラ・ナイトレイ)が5分54秒で解いてしまう。
チューリングはジョーンを表向きは通信傍受係と同じ職場に着かせ、解読器製造を進める。
やがて、解読器は完成するが、その解読作業は遅く、所定の時刻までにローターの解析はできなかった。
ヒューらも解読器の高速化のアイデアを出すが、成果が上がらなかった。
そのうち、メンバーの中にソ連のスパイがいる疑惑が生じ、デニストン中佐はチューリングを疑がった。
官憲の捜査で全く怪しいものは見つからなかった。
ヒューは見つかった暗号がいわゆるビール(BEALE)暗号で、聖書の一説がキーになっていると見抜き、
チューリングにしては簡単すぎると断言するのだった。
やがて、ジョーンの両親から退職して帰郷し結婚しろとの連絡が入る。
暗号解読にジョーンが欠かせないと考えたチューリングはジョーンに求婚し、二人は婚約した。
その後も暗号のローター解析は時間までに終わらない。
業を煮やしたデニストン中佐はチューリングの機械を停止し、首を宣言するが、
駆けつけたヒューらがチューリングを首にするなら自分たちも辞めると言って1か月の猶予を取り付ける。
しかし、期限が近づいてもなかなか作業は進まない。
ある日、バーでみんなで飲んでいるとき、チューリングはケアンクロスに婚約を後悔していると語る。
それは自分が同性愛だからで、ケアンクロスは知っていたが秘密にしておくべきだと語る。
ヒューんがナンパしたジョーンの同僚の女性が、自分が傍受している電信兵には恋人がいると言いだした。
その電信兵は必ずCILLYで始まる暗号を打つ、というのだ。
必ず現れる文字列、それこそが平文推定の鍵。
彼女が毎朝6時に受診していた暗号文は気象通報、そして文の最後はハイル・ヒットラー。
推定されたクリブ(平文のサンプル)に沿って解読器を動かすと、暫くのち機械は停止し、
ローターの組み合わせ順序を導き出した。
直ちにエニグマに暗号文を入れると見事に復号された。
次々と復号される暗号文はドイツ軍Uボートの位置を暴き出した。
そしてその先にいるイギリスの輸送船団を狙っていることも判明した。
直ちに軍に連絡を! 焦るヒューらは、解読されたことを知らせるべきではないとするチューリングと喧嘩になる。
軍に連絡すれば、ドイツ軍にエニグマの解読がばれるからだ。
兄が船団の護衛船にいるから助けて、と懇願するピーター・ヒルトン(マシュー・ビアード)も無視して。
混乱の中、チューリングはケアンクロスの机にあった聖書に折込があり、ヒューの言っていた一節だったことを知る。
つまり、ソ連のスパイはケアンクロスだったが、ケアンクロスは味方だと言い、同性愛をネタをチューリングを脅す。
チューリングはジョーンとともにミンギスに会い、エニグマの解読をデニストン中佐にも秘密にするよう依頼、
ミンギスは承諾する。
この後、暗号は解読されつづけるが、軍に知らせるものを選別し、ドイツ軍に解読がばれないよう工作する。
ある日、チューリングが家に戻るとミンギスがいて、ジョーンを軍刑務所に送ったと言う。
家にドイツ軍の暗号があったのが証拠で、ジョーンはソ連のスパイだと言う。
チューリングは焦ってその暗号は以前自分が持ち出したものでケアンクロスがスパイだと暴露するが
ミンギスは「知っている」と答える。
元々ソ連のスパイだと知っていて仲間に入れ、ケアンクロスの流す情報を操作していたと語る。
ジョーンは買い物に行っただけ、暗号文は自分が廃棄すると言って持ち帰る。
チューリングはこのままではジョーンに危機が迫ると考え、婚約破棄を伝える。
同性愛者なのは知っていたと言うジョーンに、チューリングはジョーンを利用しただけと告げ、婚約は破棄される。
チューリングらの活躍で連合軍側の作戦は多くの成果を上げ、戦争の終結は2年早まったと言われる。
終戦に際し、ヒンギスの指示ですべての書類は焼却され、メンバー全員は一切を秘密にして別れる。
舞台は1951年に戻る。
ノック刑事はチューリングの全ての告白を聞き驚愕するが、そのことは伏せられ、
結局チューリングは同性愛で有罪となり、入獄ではなく科学的去勢(ホルモン投与)を選択する。
久しぶりにチューリングの元を訪れたジョーンは、やつれたチューリングに驚くが、
クリストファーと名付けたチューリングマシンを手放さないためには受け入れざるを得なかったと嘆く。
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物語はここで終わる。
1年後(史実では1954年)チューリングは青酸自殺し、その生涯を終える。
チューリングマシンは後のコンピューターの礎となったが、
チューリングの業績はその後も長く極秘事項とされていた。
その後、イギリス政府によって2009年に同性愛告発に対する謝罪が行われ、
2013年、正式にチューリングに恩赦が与えられた。
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当時、イギリスでは同性愛が法的に禁止されており、違反者に対しては
性欲を抑えるためと称して女性ホルモン投与が行われていたらしい。
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チューリングの功績は戦時中の機密が解除される以前から評価されており、
1966年からはコンピューターのノーベル賞と言われるチューリング賞はその名に由来する。
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MI6は、イギリスの対外工作情報機関であり、ジェームス・ボンドの所属機関である。
(007の原作者のイアン・フレミングもMI6に関わっていたとされる)
MI6はWW2中によく知られるようになったらしいが、1939年当時、
まだ知られていなかったのかどうかはよくわからない。
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チューリング、チューリング・マシンがコンピューターの開発に大きな役割を果たしたことは言うまでもないが、
業界人の間で一般に知られている最初のコンピューターはENIAC(エニアック)であり、
現在のほとんどのコンピューターの構造であるプログラム内蔵型(ストアドプログラム方式)の
コンピューターはノイマン型コンピューターといわれる。
このノイマンとはマンハッタン計画にも大きくかかわったフォン・ノイマンである。
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映画のタイトルでもある「イミテーション・ゲーム」(模倣ゲーム)とは、
もともとはABCの3人で構成されるゲームで、Aを男性、Bを女性、Cを質問者として、
CはA、Bと文字でのみ会話し、どちらが女性かを見分けるテストである。
AもBもCに自分が女性であると思わせるように回答する、というものである。
チューリングは「機会は思考できるか」(Can machines think?)と言う問題に対し、
Aを機械で置き換えたテストを考えた。
Aを機械、Bを人間とし、Cが質問者としてA、Bそれぞれと会話し、どちらが人間か判断する、というもの。
もし人か機械かを見分けられないとすれば、それは機械が思考していると考えて構わないのではないか。
ただ、この推論には当然ながら反対もあって、様々な反論がなされている。
会話については思考(知的解釈)による回答ではなく、単純なキーワード抽出とデータベースとのマッチングで
それらしい回答を作り出すこともできる(人工無能、人工無脳、あるいは会話ボット)と言われている。
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エニグマは、非常に単純に言えば、換字式の暗号である。
ただし、換字用のローターが複数枚使用されており、その組み合わせと初期位置によって換字のパターンが変わる。
さらに1文字ごとにローターが回転してパターンが変わるため換字のパターンは膨大となる。
当初、3ローターのエニグマが使われていたが、1932年にはポーランドによって解読され、
ドイツ軍は5ローターのエニグマに切り替えた。
1939年にはチューリングらによってそのエニグマも解読される。
チューリングの機械はボンブ、またはチューリング・ボンブと呼ばれる。
映画ではその後について詳しく述べられていないが、ドイツ軍はさらに複雑なローレンツ暗号機を採用した。
しかしこれもコロッサスと呼ぶ解読器によって破られている。
ただ、ボンブもコロッサスも暗号文から平文を解読するものではなく、暗号機のキー
(ローターの組み合わせ、順序や初期位置など)を判別するもので、ワイヤードロジックによる
専用機であるため、今の概念ではコンピューターとは呼ばれない。
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