アルキメデスの大戦
菅田将暉、柄本佑、舘ひろし、国村隼、橋爪功、田中泯、浜辺美波、笑福亭鶴瓶。
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1945年4月。
鹿児島県沖を行く戦艦大和に襲い来る無数の米軍機。
対空射撃で応戦するも多勢に無勢。
次々と落とされる爆弾と魚雷。
甲板の兵士は吹き飛び、やがて船腹に多数被弾し穴を生じた大和は徐々に傾き、兵士を海に落としつつ、ついには転覆。
そして大爆発を起こし、海中に沈み3000名の戦死者を出した。
(史実では2740名が戦死、約270名が救助)
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話は12年ほどさかのぼる。
日本帝国海軍の新型艦製造にかかる会議が海軍省で行われようとしていた。
これからの主力は航空機であるとして、藤岡喜男造船少将の設計する大型の航空母艦を支持する山本五十六少将(舘ひろし)と、
その上司の永野修身中将(国村隼)。
一方、対立するのは平山忠道造船中将(田中泯)が設計する巨大戦艦を推すのは嶋田繁太郎少将(橋爪功)。
海軍大臣の大角岑生(おおすみみねお、小林克也)も50サンチ砲を抱え全長300mという巨大戦艦の模型に魅入られようとしていた。
しかも、山本らの推す航空母艦の建造費見積もりは1億6千万円。
嶋田の推す戦艦の見積もりは9千万円とあって、航空母艦は劣勢を強いられた。
一旦は戦艦で意見を集約されそうになるも山本の激しい反発で結論は持ち越しとなった。
その夜、料亭で対策を話し合う、永野、山本、藤岡。
藤岡設計の航空母艦より、大型で複雑な構造のはずの巨大戦艦の建造費が安いのは解せない。
経費をごまかしているとすれば、欺瞞であり、帝国海軍、ひいては国家に対する詐欺行為だと息巻く。
話を切り上げ、憂さ晴らしのために芸者を呼ぶようと女将に指示するが、あいにく独り占めされているという。
その芸者を独占し、豪遊していたのは何と帝大生の櫂直(かいただし、菅田将暉)。
山本が、芸者衆の一部を回してくれと頼みに行くと、櫂は軍人が大嫌いだからと言って断る。
櫂は、尾崎財閥の家庭教師を首になり、帝大も退学させられ、今までにもらった家庭教師代を散財しているのだという。
数学、ことさら数字に美を見出す櫂は、家庭教師相手の尾崎鏡子(浜辺美波)の寸法を測ろうとして尾崎財閥のドン、
鏡子の父の反感を買い、帝大にあることないこと吹き込まれていた。
さらに、以前尾崎の紹介で嶋田少将と面会した時、戦艦の主砲命中率が静水海域で10%程度と聞き。
実戦では役に立たない金の無駄遣いだとこき下ろし、嶋田に激怒されたことがあった。
暫くして山本は櫂の下宿を訪ね、戦艦の費用の欺瞞を正さないかと依頼する。
櫂は程なく留学のため。アメリカに出発するから無理、と断る。
すると、山本はアメリカと戦争になる、と言い出す。
圧倒的な国力の差、誰がどう見ても勝てる戦争ではないという櫂だが、山本は巨大戦艦ができれば、
海軍、政府、そして国民までもが強大な軍事力の幻想を抱き、アメリカと戦争になる。
それを阻止するために櫂の力が要る、と諭す。
櫂はアメリカ行きの客船に一旦は乗船するが、見送りの人々の中に鏡子の姿を見て下船する。
自分のせいで、帝大を首になったと謝罪する鏡子。
櫂は鏡子が戦火にさらされる幻影を見て、山本に協力することを決意する。
山本のもとを訪れた櫂。
山本は喜んで応じ、櫂を経理部門監査担当の少佐に任命し、運転手の田中(柄本佑)を櫂の部下として
補佐するよう指示した。
櫂は軍隊の規律などに全く疎いため、上官に対する礼儀を欠きそうになり田中にいろいろ諭される。
見積もりの秘密を暴こうとして、天才数学者を任用した話は嶋田/平山陣営にも伝わったが、
平山は既に手を打ってあるという。
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次回の検討会議までわずか2週間。
その間に戦艦の建造費を見積もることは事実上不可能で、さらに平山は一切の設計資料を極秘扱いとして、
櫂が見られないように画策していた。
資料がなければ何もできない。
わずか数ページの資料では戦艦の構造を推し量ることができないし、構造がわかっても
工賃や部材費の単価表がなければ、見積もりを積算することはできない。
困り果てた櫂は本物の戦艦を見たいと言い出し、横須賀に向かう途中、停泊中の戦艦長門に乗りたいと言い出す。
あきれる田中だったが、山本のとりなしで艦長の宇野積蔵(小日向文世)に連絡がつき、長門に乗ることができた。
田中にうまく宇野艦長を艦長室から引っ張り出してもらい、その間に艦長室の極秘資料を盗み見てぎりぎりでばれずに済む。
櫂は、長門のあちこちの寸法を測り始め、図面がないなら測るしかないという。
当初はあきれていた田中も歩測でできるだけ櫂に協力して計測した数字を渡すのだった。
海軍省に戻った櫂は、平山案の戦艦の図面を書き起こしにかかる。
わずか二日で、その構造までも解き明かした図面を完成させ、田中は驚愕する。
図面から部材の量はわかったものの、単価表がなければ計算ができない。
様々な在京の造船会社を当たるが、どこも海軍に口封じされていて一切の資料を見せてもらえない。
櫂は尾崎鏡子なら何か知っているかもしれないと、鏡子に聞くが尾崎は家に仕事を持ち込まないタイプで、
家に資料はない、という。
しかし、かつて尾崎の協力会社で喧嘩別れした大阪の大里造船なら協力してくれるかもしれないという。
櫂はわらをもつかむ思いで大阪に向かい、大里造船を訪ねる。
社長の大里清(笑福亭鶴瓶)は、けんもほろろに断り、戦争になると脅す櫂に関係ないと切り捨てる。
櫂は何とか資料が見たいと粘るが大里は無視し続ける。
櫂もついにあきらめて、帰京しようかと立ち上がったとき、鏡子がやってきて、大里を説得。
ほだされた大里は過去の膨大な資料を見せることにした。
櫂は激安の建造費の秘密を暴くため、と大里に言うが、大里は高額費用の艦を安値で受け、
安い艦を高値受注して帳尻を合わせるのが尾崎財閥のやり口で、自分はそれが嫌で止めたと暴露する。
これでようやく積算ができると喜んだのもつかの間。
山本から田中に電報が入り、検討会議が一週間早くなったというのだ。
実質時間切れに、全員が万事休すと思ったが、櫂は使われた鉄の量と建造費にはある法則があるのではないかと推測。
資料から必要な数字をメモして計算を始め、ついに鉄の量から建造費を割り出す方程式を編み出した。
そして、自分の作った大和の設計図を細切れにして分担して鉄の量を計算することにし東京に戻る列車に乗った。
列車の中では夜を徹して櫂、田中、鏡子が鉄の量を計算する。
しかし、全部の数字は積み上がらない。
そうこうするうち、検討会議が始まってしまった。
大角海軍大臣は財政ひっ迫の折り、少しでも安い建造費の間を推したいと申し出る。
永野は航空母艦の建造費を1億6千万から1億5千万に減額すると申し出るが、嶋田に一笑に付される。
会議の結論が戦艦に決まりかけた時、山本は戦艦の建造費には間違いがあると言い出す。
あと少しで鉄の量が計算できるので、櫂は時間稼ぎに数式を持ち出す。
そして、鉄の量と建造費の関係をグラフに示して説明し、自身の計算式を提示。
今までの艦の製造費を言い当てると宣言。
挑発に乗った嶋田は過去の資料を持ってこさせ、櫂に計算をさせると、結果はピタリ。
一艘では偶然もある、と言う嶋田。何艘か計算してみたがいずれもピタリ。
ついに、鉄の総量が計算でき、田中から櫂に数字が渡された。
計算が行われ、その結果は1億8千万円。
これを9千万円で尾崎造船に受注させ、同時に巡洋艦数艘を高値で発注することで帳尻を合わせているのではないか、
と追及する櫂。山本も大いなる欺瞞だと言ってのける。
ここまで沈黙を保っていた平山造船中将は建造費は問題ではないと言い放つ。
正確な建造費を発表すれば、日本が巨大戦艦を作ろうとしていることが諸外国にばれてしまう。
安い船を作ると発表することで諸外国の警戒心を抑えることができると力説。
嶋田は絶賛、大角大臣は感激し、山本、永野らは一言も反駁できず、戦艦で決まってしまう。
しかし、掲示されていた戦艦の図面を見た櫂は、この船には重大な欠陥があると言い出す。
台風時の想定される波高に対し、船首付近の形状が美しくないというのだ。
そして、自分はそれも考慮したと言い、細切れにした自分の設計図をつなぎ合わせて見せた。
平山は櫂の設計図に感服し、自身の設計の欠点を認め、責任を取るとして戦艦の設計案を取り下げて退出してしまう。
こうして会議は航空母艦の逆転勝利となったが、勝ったはずの櫂は何か満たされないものを感じた。
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別室で永野と歓談する山本はこれでアメリカを叩けると言ってのける。
永野は山本に非戦派ではなかったのかと言うと、戦争はしたくないがいずれ避けられないだろうと言うのだった。
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後日、平山は櫂を呼び出し、巨大戦艦の特大模型を見せる。
美しい戦艦の姿に見入る櫂だが、こんなものがあれば日本は戦争に勝てると幻影を抱いてしまうと言う。
平山は戦艦があろうがなかろうが、いずれ日本はアメリカと戦争し、必ず負ける、と言い放つ。
しかし、負け方を知らない日本は滅亡するまで戦い抜くだろう。
その日本人に、心のよりどころを与え、沈没することによって戦意を失わせ、破滅するまで闘うことを
阻止するためにこの船が必要なのだ、と言い、そのためにこの船を「大和」と名付けるのだという。
そして、櫂に方程式の提供を呼び掛ける。
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数年後、完成した大和の船上に櫂の姿があった。
山本連合艦隊司令官の観閲を受け、下船した櫂は出航する大和を見送り、涙するのだった。
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冒頭の大和撃沈シーンは見事だった。
史実さもありなんと思わせるに十分。
ラストの大和航行シーンも含め、VFXは見事だった。
「釣キチ三平」や「カムイ外伝」のCG、VFXの悪印象が強かっただけに、10年の歳月はまさに隔世の感あり。
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いくら有能でも全長220m超、全幅35m、4万トンにもなろうかと言う巨大艦をたかが数mの巻き尺で図ることは不可能。
パイプや鋼板のサイズを測ったところで、表面に見える物だけで構造を推し量ることは困難。
まして大和から初めて採用された構造や素材について、在来艦の巻き尺で測れる数字からは何もわからないはずだ。
そもそも細かい積算をせずに鉄の総量と計算式一発で金額がはじき出せるとは思わないが、
仮にそれがはじき出せたとして、建造費がわかるだけで、平山はなぜそんなものを欲しがったのか理解に苦しむ。
また、金額がいつの間にか建造費から発注額に変わっているのもおかしい。
建造費の積算を発注先に丸投げしているのだろうか。
戦艦推進派が、尾崎造船と言う癒着企業と結託しているのであれば、空母推進派はなぜ同様の企業を持ってないのか。
企業の出した見積もりが正規の建造費として認定される仕組みであれば裏取引の有無にかかわらず、
安値で請ける企業を持ってない時点で空母推進派の負けは決まったようなものだ。
原作では、平山は櫂の卓越した先進技術を盛り込んだ設計情報を入手すべく画策するようだ。
そのために櫂を懐柔するのであれば、それは十分納得がいく。
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原作者は、国立競技場建て替えに伴うごたごたから本作につながるヒントを得たらしい。
大和の建造計画が金で揉めたかもしれないという発想は面白いものの、現実には金額の問題ではなく、
巨艦主義か、航空主力主義かの論争だったと思われる。
第二次大戦以降の巨大戦艦の役割は戦艦対戦艦の撃ち合いによる海戦を制することではなく、
いわゆる艦砲射撃により上陸部隊を支援、あるいは沿岸地域の敵を撃破することが主目的になった。
しかし、これは制海権を掌握し、攻撃地点の射程範囲まで航行できることが前提。
制海制空権を持たず、航空機による攻撃を受ける場合、巨艦は大きな的になるだけ。
ただし、大きな的になるのは航空母艦も同じ。
空母自体の防御力は逆に戦艦などよりも劣るため、空母を主力とした艦隊、
すなわち空母と巡洋艦、駆逐艦、潜水艦などを連携した攻撃群を編成して運用される。
帝国海軍においては、真珠湾奇襲攻撃でアメリカ軍艦隊を航空機によって破壊したにもかかわらず、
空母はあくまでもわき役と考え続け、巨艦主義からの脱却はならなかったようだ。
また、大和は単独の艦ではなく、大和級、あるいは大和型として、2番艦、武蔵も造られているし、
3番艦、4番艦の建造計画もあったようだから、一つの艦だけの価格がどうこうという問題ではない。
そもそも戦艦は単独行動をとるものではなく、駆逐艦や巡洋艦、空母などと旗艦たる戦艦を含む艦隊で行動する。
艦隊をどう編成するのか、在来艦と併せ何を何艘作るのか、が肝要。
空母を作るのであれば、当然艦載機や陸上の航空基地も問題になってくる。
単艦当たりの建造費の問題ではなく、海軍の軍事費全般にかかる配分の問題。
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大和を沈めることで戦意を削ぎ、逆に国家滅亡を防ぐとの考えは一見まともだが、それを自国軍の中枢が意図していたとしたら、
それはそれで悲惨だ。
鑑賞時には全く別の感想を抱いた。
それはあるTV番組での話。
終戦間近にアメリカ軍による焼夷弾爆撃で多くの人々が焼け死んだが、それは市民に対する無差別攻撃だった。
爆撃はエスカレートし、そのままでは日本全国を焦土化し、日本人を焼き尽くすほどの非人道的作戦であった。
原爆投下は、破滅的な大量破壊兵器を使用することにより、非人道的な無差別爆撃を止めさせるための手段だった。
その効果は予想以上に絶大なもので、悲惨な結果をもたらしたものの軍当局に無差別爆撃を辞めさせるには十分だった。
原爆は戦争の早期終結を目指したものではなかった、むしろアメリカ軍内により非人道的な焼夷弾爆撃を止めさせるためだったという。
じゃ、なぜ原爆を2発も落としたんだ。
軍部内部のせめぎあいと言うか権力争いがあった可能性はあるが、もたらした結果が予想以上に悲惨なものだったのは事実としても、
ウラン型とプルトニウム型原爆の実験に日本を利用しただけで、焼夷弾爆撃を止めさせるためとは到底思えない。
荒唐無稽ともとれるこの説と、日本の軍事力の象徴たる不沈戦艦大和を沈めることで日本軍、日本人に目を覚まさせる的意見に
同じ臭いを感じたのは私だけだろうか。
結局のところ、思っていた内容とかなり違った。
監督が描こうとしていたものはかなり矮小化してしまったのではないかとさえ思う。
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戦艦大和がなぜ作られたのか、大和は作られるべきだったのか、乗組員の悲劇、戦争の悲惨さなどには一切関係なく、
今なお人々を魅了するその姿は美しい。
大和ミュージアムには、なんと1/10(全長26.3m)の模型があるそうだ。
現在は戦艦はすべて退役しているが、軍事オタクでなくても戦艦に魅せられるのは、洋の東西を問わないようで、
近代兵器が太刀打ちできない宇宙からの敵を記念館となっている戦艦ミズーリをもう一度動かして撃破する映画がある。
(2012年の「バトルシップ」)
なお、ミズーリは大和より長いが細いので,排水量としては大和のほうが大きい。
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