マネーショート 華麗なる大逆転
クリスチャン・ベール、スティーブ・カレル、ブラッド・ピット、ライアン・ゴズリング
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2005年頃、アメリカは住宅景気に沸いていた。
住宅価格は上昇を続け、住居としての需要だけでなく、投資の対象になっていく。
いざとなれば担保の家を取ればいいから、銀行は返済能力の怪しい人にも金を貸し、
どんどんと家を買わせる。それがサブプライムローン。
ローンの原資はモーゲージ証券で集める。
さらにスワップやオプションといった金融商品を組み合わせ、ディリバティブ証券に仕立て上げる。
それを銀行はガンガン市場で売り、投資家はバカスカと儲けている。
そんな日々が続くころ、一人の投資家、マイケル・バリー(クリスチャン・ベール)は、
格付けの高い多くのデリバティブが、実はずっとリスクの高い危ない商品であると考え、
主要な出資者のフィールズ(トレーシー・レッツ)に話を持ちかけるが相手にされない。
しかし、自分の説に確信を持つバリーは、デリバティブの値下がりを補填するスワップ商品、
CDS(クレジット・ディフォルト・スワップ)をデリバティブを扱う銀行に持ち掛ける。
バリーはデリバティブの破綻を山勘で言っているわけではなく、大辞典ほどもある目論見書を読破し、
組み合わされている金融派生商品の多くが、サブプライムローンの破綻に引きずられる構造になっており、
AAAの格付けが実態に見合わないことを見抜いていた。
普段はTシャツにスリッパのバリーがスーツに身を固めて銀行に折衝に向かうが、
ほとんどのところは、デリバティブの破綻などありえないと、けんもほろろに追い返す。
最初にバリーの要求に応じたのはドイツ銀行のジャレッド・ベネット(ライアン・ゴズリング)
バリーは、ここで莫大な金額のCDSを買うことに成功する。
さらに、バリーは多くの銀行を回り、CDSの購入を次々と契約していく。
若手投資家のチャーリー・ゲラー(ジョン・マガロ)と、ジェイミー・シップリー(フィン・ウイトロック)は、
自分たちの投資話を証券会社に持ち込むが、まともに会議室にも通されず、
お茶も出されずロビーで若手社員に体よく断られる。
二人の会社は若く小さいため、許認可の関係で大口取引ができない。
そこでかつて凄腕の金融マンで今は一線を退いている既知のベン・リカート(ブラッド・ピット)に
協力を依頼する。
ベン・リカートはオーガニック野菜を育てながら悠々自適の生活だったが、二人に協力する。
ゲラーとシップリーはやがてバリーがCDSの大量買いをしていることに気が付く。
そこでバリーの動きを調査し、サブプライムローンに絡むデリバティブがやばいことに気づく。
二人がCDSの買い付けを相談するとリカートは話に乗ってくるが、
なかなかCDSの取引に応じる相手は見つからない。
その頃、ゴールドマン・サックスのディーラー、マーク・バーム(スティーブ・カレル)の元に
ベネットがやってきて、CDSを買わないかと持ち掛ける。
バームのチームは、ベネットの話を保証料をせしめたいだけのインチキと決めつけるが、
バームは詳しく調べようと考える。
そして実際の住宅市場を調べて回り、既に住宅価格は高止まりしていて、
転売もままならず、空き家が増えていること。
ストリッパーでさえ、低金利ローンの借り換えを当てにして多額の借金をして家を買い、
10軒も20軒も投資目的で家を持っていること。
さらには、サブプライムローンの審査が実にいい加減で、
そのデリバティブもろくな審査もなくAAAに格付けされていたことを知る。
証券会社はサブプライムローンに絡むデリバティブをまとめて担保とし、
債務担保証券(CDO=コラテライズド・デット・オブリゲーション)に組み替えている。
CDOの格付けは高く、デリバティブのリスクは見かけ上回避されたかに見えるが
元の債権がクズなら、CDOは「クズを組み合わせた新たなるクズ」に過ぎない。
ついにバームはチームや上司の反対を押し切ってドイツ銀行を介してCDSを大量に買い付ける。
ドイツ銀行はデリバティブの破綻を予測しているわけで、CDSの売り手ではなく仲介。
この間、債券市場は全く混乱なく展開し、バリーは大量に買ったCDSの保証料支払いに追われる。
証券ディーラーのコンフェレンスがラスベガスで行われることになり、
バームのチーム、リカートとゲラー、シップリーらも参加する。
バームの目的は本当に証券会社やアナリストがクズなのか見極めること。
コンフェレンスの席で債券市場は底堅いとのアナリストの意見に散々ケチをつけるバームだが、
会場の雰囲気はアナリストに賛同していた。
リカートとゲラー、シップリーはCDSを買い付けることだった。
結局、ゲラーとシップリーは大量のCDSを手に入れ大喜びするが、リカートは
俺たちが儲かるということか大勢の人が破綻し、職を失い、資産や年金を失い、死ぬことだ、
そういう商品を買っているんだということをよく考えろ、とたしなめる。
やがて、サブプライムローンの破綻が増え、そのデリバティブも破綻するものが増えてくる。
しかし、債券市場に動揺は見られず、格付けも下がらない。
バリーはCDSの値上がりを見越し、投資家の資金引き上げを停止すると宣言するが、
フィールズはバリーの事務所に乗り込んで資金を引き揚げると言い放つ。
バリーは持っているデリバティブやCDOを処分し、CDSの保証料支払いに充てる。
バームは下がらない格付けに業を煮やしS&Pに乗り込むが、担当者はうちがAAAをつけなければ、
ムーディーズに客を取られるだけだと言い放ち、バームを呆れさせる。
その後もディリバティブの破綻は続き、CDSの市場価格が上がっていく。
バリーの投資会社はCDSを売って大きな利益を生むが、バリーは何かやりきれないものを感じていた。
ゲラーとシップリー、リカートもCDSを売りぬけて莫大な利益を手にするが、
リカートは金融から足を洗い、田舎暮らしに入ってしまう。
ベネットはCDSの仲介で、莫大な手数料収入を稼ぎ、巨額ボーナスを手にした。
一方、バームはまだCDSを保有していた。
ゴールドマンサックスの上司はバームを呼びつけて神妙な顔つきで説明を始めるが、
バームは自社が大きい損失を出していると気づいた。
ゴールドマンサックスはバリーが手放した大量のCDOを買っており、それが破綻していたのだ。
バームのチームは、CDSの売り抜けを迫る。
CDSが損失を補てんするものとはいえ、元の担保証券が完全に破綻すればCDS自体も紙くずになる。
バームもついに折れて、CDSの売りを指示する。
バームにとっても彼の社にとっても後味の悪い勝利だった。
*
サブプライムローンの破綻を予測してリーマンショックを切り抜け、
大儲けした人たちの話、といった単純なものではありません。
はっきり言って金融証券の仕組みがわからないと、難解な映画でした。
緊迫感があったなどと書いている人が多いですが、チラシにある「空売りとは」を読んで、
なるほど、などと思っている人に緊迫感が伝わるとは到底思えません。
私見ですが、映画にドキドキした人はよほどの金融通か、能天気な人です。
CDS、CDOは初耳でした。
大体、CDSを買っているわけで(CDSもデリバティブの一種)空売りなんかしてないし、
ましてや「華麗な」面は一つもなく、何が大逆転なのか不思議です。
また、彼らが一つの商品に固執して山を張っていると思っていたら見誤ります。
バリーですらCDOを持っていたし、他の金融商品をたくさん持っているはず。
バームの会社もCDSでは儲けたのにCDOで大損こいてますからね。
最低でもデリバティブ、ヘッジ、スワップ、オプションの意味くらいは分からないと
何を売り買いしているのかすらわからないと思います。
一般的な意味合いではなくデリバティブの個別商品の値付けの仕組み、
その売買(当初の売買だけではなく償還前の市場取引)がどのように行われるのか、
そもそも償還前の途中売買ができるのか、市場があるのかさえもわかりません。
デリバティブは多種多様多岐にわたり、デリバティブ証券の中身を十分理解してから
投資する人はそうはいないでしょう。
バリー(クリスチャン・ベール)が目論見書を全部読んだと言って驚かれますが、
バリーは、組み込まれた個々のデリバティブがどの程度危ないのかもきちんと吟味しています。
バブル崩壊前には、バブルの崩壊はもちろん、自分たちがバブルの真っただ中にいることも
予測できていなかったでしょう。
バブルがはじけるというと、一気に壊滅的な収縮を想像しますが、
実際には徐々に空気がけるようにしぼんでいき、気づいた時にはもう遅い。
実はサブプライムローンが破綻しても、住宅価格が上がり続ける限りモーゲージ証券は破綻しません。
値上がりした担保の家を売ればいいだけだから。
ローンの借り手は破綻するが、それは銀行にとってはどうでもいいことで、
顧客のことよりもどうやって稼ぐかの方が大事なんでしょう。
リカート(ブラッド・ピット)は銀行のやり口が嫌になったと言っています。
CDS、クレジット・ディフォルト・スワップとは、対象となる金融商品の価格が
下がったときに出る損害を補填するスワップ。
今は違うようですが、補填の対象や保証料の率なんかは相対でかなり自由に決められたようです。
いずれにしてもかなりのハイリスクハイリターン
対象の証券の価格が下がらない場合は一定の率の保証金を払い続けることになる、
いわば、損害補填保険で保証金はその保険料のようなものでしょう。
CDOはコラテライズド・デット・オブリゲーション、日本語では債務担保証券。
担保で債務を保証する証券。
債券を担保に資金を調達する債券ですが、その担保となる債券のリスクがもろにCDOのリスク。
ただ、個別の債券のリスクは様々でリターンも多様なので、うまく組み合わせれば、
ローリスクハイリターンにできそうな気もしますが、大元の担保証券/債券がクズなら
必然的にCDOもクズだと言うのはわかります。
住宅ローンが焦げ付けば銀行がやけどをすると思うのは早計で、そのためのモーゲージ証券であり、
リスクは銀行から投資家に移転されます。
さらにそれを担保にオプションやらスワップを組み合わせて、劇中でセリーナ・ゴメスが
解説していたように取引を何倍にも膨れ上がらせた結果、大元がこければ総崩れ。
なお、ライアン・ゴズリングが、ジェンガを使って説明していたとき、一旦は崩れたジェンガが出ますが、
次のカットではまだ崩れておらず、撮影の時系列が逆転しています。
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