クリーピー 偽りの隣人
西島秀俊、東出昌大、竹内結子、香川照之、藤野涼子、笹野高志
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犯罪心理学を修めた刑事、高倉(西島秀俊)は取り調べていた殺人犯の松岡の言動に非常に興味を持った。
松岡は検察に引き渡される際に警官を殺害して逃亡、たまたま居合わせた女性を人質にした。
高倉が説得を試みるも、刺されて負傷、松岡は野上刑事(東出昌大)に射殺される。
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それから1年、高倉は警察を辞め、東洛大学の教授へと転身していた。
妻の康子(竹内結子)と、郊外の一軒家に引っ越し、近所へのあいさつに行った。
空き地を挟んだ田中家は不愛想な夫人が近所づきあいはしないとけんもほろろ。
空き地の奥の西野家は不在だった。
翌日の昼間、康子は一人で西野家を訪れる。
インターホンに応答がなく、手土産を置いて帰ろうとすると主人(香川照之)が出てきた。
何とも的外れなやり取りの末、康子は不機嫌で家に戻る。
高倉は大学で犯罪心理学の講座を持っていた。
授業の合間に助手の大川が犯罪事件を調べていることに興味を持ち、中でも未解決の6年前の「日野市一家失踪事件」に興味を惹かれた。
なぜこれが未解決事件として記録されているのか。
しかも、失踪した本多家の4人のうち、当時中学生の娘、早紀だけが残されていた。
高倉の記憶によれば、早紀は供述がころころ変わり証拠能力なしと判断されていた。
大川の提案で高倉は現場の家に行ってきた。
何やら異様な雰囲気を感じ取った高倉は大川を制し、家には入らず帰る。
高倉家の飼い犬、マックスがたまたま外にいた西野にじゃれつき、西野はひっくり返り、康子は平謝りする。
西野は丁寧に昨日の不愛想を詫び、そこに娘の澪(藤野涼子)も帰ってくる。
康子が社交辞令を述べると、西野は食って掛かり、やはり変人ではないかと思わせる。
翌日、大学に警察時代の部下の野上がやってきた。
野上は高倉が日野市の現場に行ったことを知っており、残された娘、早紀に会ってみないかと告げる。
高倉が野上と現場に行くと偶然にも早紀(川口春奈)が来ており、大学で話を聞きたいと告げるが、
早紀は逃げるようにして帰る。
高倉は帰宅途中、西野に呼び止められ、奥さんが失礼なことを聞いた、と文句を言われる。
高倉は気分を害し、康子に近所づきあいはしないよう告げる。
翌日、高倉は早紀を訪ねる。
一旦は同居している祖母に追い返されるが早紀は高倉に会い、話すことを約束する。
早紀は大学に高倉を訪ねて、話し始める。
おぼろげな記憶をたどり、失踪直前の家族の様子を語り、みんなが同一人物と連絡を取っていたかも、という。
記憶が戻りつつある早紀は再び高倉を訪ね、自分の家を見ていた誰かを部屋から見下ろしていたという。
高倉は隣の水田家にヒントがあるかもしれないと考える。
今は空き家になっている水田家を野上が調べに行く。
家の中にはすごい悪臭が漂い、野上は押し入れの中からビニル袋に密封された死体を見つける。
死体は5体。
3体は早紀の家族で、2体は水田家の夫婦だった。
では、早紀が見た人物は誰なのか。
康子は、余ったビーフシチューのおすそ分けに西野家を訪ねる。
一旦は家に入った康子だったが、異様な雰囲気にビーフシチューを渡して早々に帰る。
帰宅した高倉は西野が家にいることに驚く。
康子は西野の娘、澪に料理を教えることになったという。
高倉は西野の職業などについて聞くが、西野は言葉を濁す。
ある日、帰宅途中の電車内で西野が老人に席を譲るのを見た高倉は西野を見直し、
東洛大学に勤めていることなどを話す。
康子はマックスがいなくなっているのに気づき、探しに行くと公園で西野がマックスを捕まえていた。
礼を言って家に戻る康子。
丁度早めに帰宅した高倉が家の外で澪を見かける。
お父さんによろしく、というと澪から「あの人お父さんじゃありません」と返される。
そこへ康子と西野が現れ、澪との話はそこで終わる。
ある日、高倉が家の中で康子を探していると、康子は階段の陰で誰かに電話していた。
問い詰めると康子は激高し、高倉は環境が変わったせいでイライラしているのだと思う。
高倉がマックスを連れて散歩し、高台から自宅を見る。
そして、自宅と西野家が、本田家と水田家の関係に似ているのではないかと思い、
野上に「西野雅之」について調べてくれと頼む。
野上は西野について調べ、西野宅を訪問する。
野上が調べた西野雅之とは明らかに別人物だった。
家に入ると西野はちょっと待ってと言って姿を消し、なかなか現れない。
野上が家に入っていくと薄暗い廊下の奥に大きな鉄製の扉があった。
夜、高倉が帰宅すると田中家から火の手が上がる。
すぐに駆け付けるが、爆発が続けて起こり手が付けられない。
西野家ではTVの灯りが漏れ、平然とTVを見ている様子が見て取れた。
現場検証に来た刑事の一人、谷本(笹野高志)は高倉にも聴取を行う。
田中家からは3体の焼死体が見つかったといい、田中夫人とその母、そしてもう一人は野上だった。
西野の犯行を疑った高倉だが、警察は相手にしない。
高倉は西野と水田が同一人物だと考え、西野の写真を早紀に見せ、水田ではないかと問うが
早紀は対応を拒否する。
一方、いよいよ事件の構図が明らかになる。
あの大きく重い鉄扉の向こうには死体がビニル袋に入れて置かれ、澪が空気を抜いていた。
半狂乱の澪の母がおり、澪は母に薬剤を注射し、正気を取り戻した母は死体処理を手伝う。
再び西野が部屋に入ったとき、母はドライバーで西野を襲い殴り倒される。
西野は澪に母を射殺するよう指示し、澪がためらっていると撃ち殺してしまう。
そして、始末しろと指示、澪ができないというと康子を連れてきて手伝わせる。
康子は薬で西野に操られてしまっていた。
翌日、家で康子を探していた高倉を澪が訪ねてくる。
西野が追ってきて、澪を連れて帰るという。
高倉は澪に警察を呼べと言い、西野には断ると西野は鍵を開ける。
高倉が外に出て西野を取り押さえると康子が西野は悪くない、という。
そこへパトカーが到着。
西野が通報していたため、高倉が連行される。
高倉の取調室に谷本が入ってくる。
谷本は野上が多額の借金をしていて高倉に金の無心に行き、会えなかったため
自暴自棄になり、放火して自殺したものとみているということだった。
高倉が反論すると、谷本は野上が「西野雅之」について調べていた、と語り、
西野も任意同行しているというが、すでに西野は帰されており、
高倉と谷本は自宅に急行する。
高倉は自宅に、谷本は西野家に入る。
しかし、谷本は鉄扉の奥の地下倉庫に落ち、上がろうとして西野に薬剤を注射されてしまう。
次いで康子を探しに西野家に入った高倉は康子、そして死に掛けの谷本を発見するが、
西野と対峙しているうちに康子に注射を打たれて昏倒してしまう。
谷本の車を隠蔽し、西野は帰宅した澪に引っ越しを告げる。
康子の運転で意識混濁の高倉、澪、マックス、そして澪は茨城方面へ移動。
閉鎖されたホテルの駐車場に車を止め、西野は新たな獲物を物色。
高倉をいとこ夫婦と偽装して乗り込むことにした西野は、マックスが邪魔になり、
射殺しようと考えるが自分ではできず、高倉に銃を渡して指示する。
高倉は銃を受けとり「それがお前の落とし穴だ」と言って、西野に弾を食らわす。
西野はそこに倒れて死ぬ。
澪は嬉々としてマックスとともにどこかへ去り、高倉は康子を抱きしめる。
康子は安堵と恐怖からか絶叫して映画は終わる。
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鑑賞後(鑑賞中もだが)あまり気分のいい映画ではなかった。
たまたま一緒に鑑賞していた観客の何人かは、やはりあまり気分が良くなかったようで、
不満げに何やら語り合っていたし、出口で「こういう映画だと知らなかったから」と
モギリの女性に語る老婦人がいた。
お気持ちはよくわかります。
香川照之は「凶悪」のリリー・フランキーより感じ悪い。
ラストシーンもこれで続きはないのだが、全くすっきりしない。
多少気を使ったのか、血が見られないのはかえって不自然。
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展開も結末も小説とはかなり違うようだ。
映画では偽の西野(偽の水田)、野上、本多らは全く関係のない間柄だが、
小説ではかなり複雑に絡んでいるらしい。
時間の関係もあって人物を整理し、その関係性や立ち位置も変えるのはやむを得ない。
ところどころ類似点はあるものの展開はほぼオリジナルといってもいいのかもしれない。
ただ、そのために脚本というか設定に無理、あるいは矛盾が出てしまった。
例えば、警察とは疎遠の高倉が本多家を訪れたのが、野上にはすぐわかったのに、
野上の行動を警察の誰も把握していないのはどうしてなのか。
あれだけ悪臭漂う一軒家に近所は不審を抱かなかったのか。
6年も経っているのになぜ白骨化せずに残っているのか。
警察のDBを検索しているのだから、野上のパソコンを調べなくても何を調べたのか、
何をダウンロードしたかはサーバに記録が残っており、すぐにわかるはずだ。
何より一介の刑事である野上が誰にも相談せずに過去の事件を追い、高倉と行動することは考えにくい。
谷本も同様。
いくら西野の偽装に引っかかったとはいえ、誘拐事案として取り扱っている容疑者を
刑事が誰にも連絡せずに勝手に署を抜けて連れ出し、同一行動するのはいささか無理がある。
なぜ野上に多額の借金があったのか。
西野家に鉄扉の作業室(無音室)や地下倉庫などがあったのは偶然なのか。
(無音室の構造もおかしい)
偽西野の行動を見ていると、西野家を狙ったのは家の配置などからの偶然としか思えないのに、
都合よく設備があったのは疑問だ。
田中夫人の言う鬼の行状は偽西野のことなのか、本物の西野のことなのか。
死体がまだあったため、偽西野が西野父を殺害したのはごく最近のことのようだ。
西野妻を薬漬けにしたのもその前後だと思われるが、西野家自体が越してきたのは
数年前なので、いったいいつ西野家を乗っ取ったのかは疑問だ。
仮にそれが本多家失踪事件の直後だとすれば、引っ越し時期とはつじつまが合うが、
最近まで一緒に住んでいたとは思えないから疑問は晴れない。
また、澪が死体処理に全く動じないのは解せない。
父は淡々と、母もショックは受けたもののさほど動揺もせずその死を受け入れて始末している。
つまり澪もかなりのサイコパスでなければならず(結末からもそう見えるが)それは偶然か。
澪を西野家につなぎとめているものは一体何なのか。
それが母だとすれば、高倉家に逃げてきた後、警察に助けを求めてもいいはずだ。
あるサイトによればあの注射器の薬剤はアドレナリン、つまり、注射はエピネフリン・オートインジェクター、
通称エピペンである。
薬剤の実際の効果が映画通りであるかどうかはともかく、エピペンを犯罪に悪用する(できる)となると、
非常にまずいと思われる。
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