凶悪
山田孝之、リリー・フランキー、ピエール瀧、池脇千鶴。
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やくざの須藤(須藤純次:ピエール瀧)は、ケンちゃん(佐々木賢一:米村亮太郎)を縛り上げ、
橋の欄干を歩かせ、ついには墜落、溺死させる。
日野佳政(斉藤悠)とその女を縛り上げ、女は薬で死なせ、部屋に火を放って日野に重傷を負わせる。
また、配下の五十嵐邦之(小林且弥)を同乗の車内で射殺する。
やがて犯行はばれて逮捕され、一審、二審とも死刑判決を受ける。
明潮社の記者、藤井修一(山田孝之)は取材した事件の記事を編集長の芝川理恵(村岡希美)に提出するが、
旬を過ぎたとして却下され、代わりに小菅(東京拘置所)に収監されている死刑囚からの手紙を渡され、
面会に行くよう指示される。
死刑囚は須藤純次。
須藤は温厚な態度で藤井に接し、看守のいる中で藤井に今まで隠していた殺人が3件ある、と告げる。
上告中の身で、不利になる新たな殺人事件を告白する理由を藤井は、事件の首謀者に復讐するためだと言う。
自分が可愛がっていた部下を「先生」の嘘で殺してしまった。
自分以上にひどい「先生」がのうのうと生きているのは許せないので、記事にして捕まえてほしいとのことだった。
「先生」とは、不動産屋の木村孝雄(リリー・フランキー)。
不動産ブローカーがやくざと組んで殺人をしたからって普通すぎて面白くない、と柴川にあっさり却下される。
しかし、藤井は須藤と何度か面会を重ねるが、あまりにも須藤の供述があいまいで、
逆に引っかかる藤井は取材を続ける。
最初に殺したとされるのは、どこかの不動産屋。
被害者の名前も覚えていないが、知り合いの鉄工所で遺体を焼却したという。
何回目かの面会で須藤は焼却炉の持ち主の名前を思い出す。
探し当てた鉄工所の社長は数年前に資材の下敷きで脳を損傷、植物状態の寝たきりとなっていた。
次は「島なんとか」と言う老人。
殺して土地を転売、死体はどこかに埋めたと言う。
藤井は住宅地図を頼りに須藤の言うあたりの「島×」(島田、島岡、島本など)をしらみつぶしに調べていく。
そして、現在は駐車場になっている「島×」の土地が木村孝雄に転売されていたことを突き止める。
また、埋めたとする土地を探し当てるとそこは木村不動産の管理地だった。
近くの住民によると、土地はずっと遊休のままで、何年か前にユンボが入って工事かと思ったら、
すぐに止めてしまってまたそのままだと言うことだった。
3人目は牛場電気の親父。
自殺に見せかけて山野に放置した、と言うことだった。
その家を訪れても、誰も自殺に疑問を持っていないようだった。
藤井の家庭にも問題があった。
母、和子(吉村実子)は認知症で、妻、洋子(池脇千鶴)は、肉体的にも精神的にも参っていた。
老人ホームに入れたいと言う洋子の訴えは、修一には届いていなかった。
藤井は編集長に取材を止めるよう言われる。
記事にできないと告げる藤井に須藤は怒り狂う。
須藤の告白に何かを感じていた藤井は社に戻らず取材を続けた。
木村の家を訪れ、逆に警察に連行されてしまう。
藤井の不誠実を責める洋子。
藤井はまだ取材をあきらめきれなかった。
木村の動向を探り、最初に殺されたとする不動産屋の店を訪れた藤井。
その奥ではいったい何が行われていたのだろうか。
当時、木村は金を返さない不動産屋を文字通り締め上げていた。
怒りに任せて締め上げ続け、ついには殺してしまう。
木村は、慌てて須藤に電話し、死体の処理を手伝わせる。
木村は知り合いの鉄工所に電話、焼却炉を利用させるよう命令して死体を持ち込む。
焼却炉は意外と小さく、死体が入りきらないため、須藤は鉈(ナタ)で死体をバラバラにして焼却した。
「島なんとか」は介護サービスの社長との結託。
土地資産を持ちながら、今はホームにいるような老人。
介護サービスの社長が探し当てて、甘言でだまし、木村のもとに連れてきた。
須藤は老人を殴り倒し、木村はまた焼却炉で燃やすことを考えるが断られ、
結局自分の管理する土地に生き埋めにすることにした。
生きながら埋められる老人。
絶望と嘆願の眼差しに木村は逆に快感を覚えるのだった。
佐々木賢一は、須藤が刑務所で知り合った男。
出所したが、元の組長は迎えにも来ず、組の身代わりで刑務所に入ったと言うのに、
逆にしのぎが減ったとして金をよこせと言われたと言う。
賢一の言葉を信じた須藤は、賢一の組長を襲う。
しかし、出所祝いは渡した、少ないのならもっと出すと言う組長に、須藤は賢一に騙されたと気づく。
須藤は賢一を締め上げ、結局端から墜落させて水死させる、冒頭のシーンにつながる。
牛場は5千万円からの借金をしていながら、返す当てもない牛場悟(シジ・ぶう)。
家族からも見放され、保険金で返すしかないとされる。
木村は借金返済のため、悟を住み込みの仕事だとして須藤の家に連れ込み酒を飲ませる。
最初は調子に乗って酒を飲んでいた悟も家に帰りたいと言いだすが、家族には見捨てられる。
スタンガンで痛めつけ、のた打ち回る所を見て大笑いする木村と須藤。
最後はきつい酒を無理やり飲ませ、ついに死なせてしまう。
体中のあざや傷は氷風呂でごまかし、服を着せ、車で山の中まで行ってのたれ死んだことにした。
あまりの非道ぶりに、配下の日野や五十嵐も引くほどだった。
須藤は日野に裏切ったなと告げ、逃げる日野を追い詰めて女ともども縛り上げて火を放つ。
しかし、日野への傷害と殺人、放火の容疑で手配された須藤はついに逮捕を覚悟する。
木村は須藤に逃走資金を渡し、情婦の静江(松岡依都美)と娘の面倒は見ると約束する。
そして、五十嵐が密かに逃走資金を要求してきたと(嘘を)言う。
その言葉に騙された須藤は隠れ家を探す五十嵐を射殺してしまう。
藤井は、取材を記事にまとめ芝川に付きつける。
芝川は藤井をなじるが、その剣幕に押され、地元署に告発に行く。
最初は過ぎたことと取り合わない警察も藤井の圧力に上に上げると約束する。
芝川は警察の判断を疑い、記事を掲載することを決意する。
そして、記事は大反響を呼び、部数は飛躍的に伸び、ついに警察は動き、牛場電機の保険金殺人で、
一家と木村が逮捕される。
他の殺人は証拠不十分で起訴に至らない。
藤井はさらに木村を追い詰めるべく、須藤に面会するが、贖罪のためにキリスト教に入信した須藤は
達観した様子でそれ以上のことは告げない。
やがて木村の公判。
証言に立った須藤は藤井を利用して死刑執行を引き延ばそうと考えたと吐露する。
同事件での須藤の公判では、須藤は生きて罪を償うと語るが、藤井はそれは許されないと激怒する。
結局、この事件でも須藤は懲役の判決を受けるが(死刑囚に懲役は無意味と)藤井は納得いかない。
何度かの要請で木村はついに藤井と面会する。
俺は無期懲役で生きている、とうそぶく木村。
結局俺を殺したいのは、警察でも須藤でもなくお前だと指摘してその場を去る。
*
最後に、藤井の母は養護施設に入れられて物語は終わるが、
藤井と妻の関係が修復したのかどうかは語られない。
これがハリウッド映画なら簡単に離婚しているところだろうが、
洋子が妻の立場にこだわり続けるのは、いかにも日本映画らしいかもしれない。
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映画は事実をもとにしたフィクションであると表示される。
原作の小説はノンフィクションであるとされる。
映画では長さの関係からか、人物関係や事件が整理され、少しは判りやすくなっているようだ。
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世の中には消息不明の人物は、老人に限らず大勢いるし、
状況からどう考えても不審死なのに自殺として扱われる事案も多い。
死んだのに永年にわたって年金を受け取っていた話、
行方不明の子供の手当を受け取っていた話、等々、
ちょっと考えれば(調べれば)判りそうに思えるのにずっとばれなかった話も多い。
行方不明で消息がつかめず、もしかして特定失踪者(拉致被害者)と思われ、
国もそう認定していたのに、実は漁労中に網に巻き込まれて死んでいたとか、
用務員に殺されて遺棄されていた小学校の先生とか、表面化しなかった事件もある。
この事件は表面化しただけまだましかもしれない、ただこれでもすべての事案が明るみに出たわけではない。
闇に葬られた凶悪事件は実はもっともっと多いのかもしれない。
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判決を受けて自責の念に駆られ、且つ自分と同じくらい悪い男がのうのうと生きていることに怒り、
復讐を果たそうとする心情は分からないでもないが、それまで極悪非道の好き勝手やっていた人間が、
如何に反省したとはいえ、あるいは演技だとしても、あそこまで「良い人」になれるのかは、よくわかりません。
監督は、良い人を演じることの多いリリー・フランキーやピエール瀧のイメージを壊したかったそうだが、
少なくともリリー・フランキーに関しては成功。
当初正義感に駆られて取材を始めた藤井(山田孝之)が徐々に病的に追い込まれていくのも見ごたえがあった。
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