ナイブズ・アウト
ダニエル・クレイグ、ジェイミー・リー・カーチス、クリス・エバンス、アナ・デ・アルマス、クリストファー・プラマー、マイケル・シャノン。
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主人公の探偵はブノア・ブラン。
Benoit Blanc のスペルからもわかるようにフランス系の名前だ。
ただ、本編ではブノア・ブラン自身が「ブランク」と発音していたのでここではブランクと書くことにする。
名前をブノアと言っていたか、ベノイトと言っていたかは記憶にない。
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有名な小説家ハーラン・スロンビー(クリストファー・プラマー)が、首を切って死んでいるのを発見された。
警察は自殺だと断定して捜査を打ち切ろうとしたが、その死に疑問を抱いた探偵ブランク(ダニエル・クレイグ)の登場で謎解きが始まる。
まず最初に人物の相関を整理しておこう。
死んだのは高名な小説家のハーラン・スロンビー。
85歳の誕生パーティの翌朝、自室で死んでいるのが発見された。
子供は長女のリンダ(ジェイミー・リー・カーチス)結婚して苗字はドライスデール。
旦那はリチャード・ドライスデール(ドン・ジョンソン)。不動産会社社長。
二人の息子にヒュー(クリス・エバンス)、通称ランサムと呼ばれる放蕩息子がいる。
長男のニールはすでに死亡し、その妻のジョニ(トニー・コレット)がいる。
二人の娘、メーガンは女子大生で高額な学費はハーランが出している。
次男、ウォルター(マイケル・シャノン)は、ハーランの小説の出版社を任されている。
その妻はドナで、息子はまだ若いジェイコブ。
ハーランの母で年齢不詳のワネッタは車いすでやや認知症気味。
このほかに家政婦のフランとハーランの看護師、マルタ・カブレラ(アナ・デ・アルマス)が屋敷に出入りしている。
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さて、ハーランの誕生日の翌朝。
いつものようにフランがハーランの部屋に朝食を届けに行く。
フランは、自室のソファに横たわり首を切って死んでいるハーランを見つける。
動機はわからないものの、他殺を疑わせるものはなく自殺と断定された。
ハーランの葬儀も終わり、一週間が過ぎた。
しかし、警察のエリオット警部補は相棒のワグナー巡査を伴って事件を調べなおすという。
誕生パーティにいた全員が事情を聞かれる。
エリオットとワグナーの後ろで静かに話を聞いていた著名な私立探偵のブランク(ダニエル・クレイグ)
家族にあんた誰? と聞かれたのを機に質問を始める。
一見仲の良い家族だが、詳しく聞いていくうちに少しずつ事情が見えてくる。
死の前日、つまりパーティのあった夜。
ウォルターはハーランの嫌がる小説の映画化やドラマ化を画策し、ハーランから首を宣告されていた。
リチャードは会社の女性社員と浮気をしており、ハーランからリンダにばらすと言われていた。
ジョニは娘メーガンの学費を二重取りしていたことがばれ、ハーランには小切手を切るのはこれが最後と言われていた。
ヒューがハーランと口論し、「後悔するぞ」と捨て詞を吐いていったことをジェイコブが聞いていた。
エリオット刑事らは、トラブルは殺しの理由としては弱い、現場の状況から見ても自殺以外考えられないという。
ブランクも殺しの理由としては弱いことには同感。
しかし、引っかかる点があった。
それはこの自殺が実は他殺ではないかと調査を依頼してきた人物が誰かわからないことだ。
匿名でハーランの死亡記事と現金が送られていたのだ。
詳しい様子を調べると、パーティ終了後、自室に戻ったハーランはマルタと碁をした。
物音で様子を見に行ったジョニにハーランは碁盤を落としたといい、ジョニは戻る。
その後、マルタは12時ちょうどに屋敷を後にし、玄関でタバコを吸っていたウォルターと会話している。
15分ほどのち、ハーランが階下に降りてくる物音でリンダが目を覚まし、ウォルターがハーランを見ている。
深夜3時頃、犬が吠えたため、リンダはまた目を覚ましたが、程なく静かになりそのまま眠ってしまった。さて、看護師のマルタも尋問される。
マルタは嘘をつくと吐いてしまうというトラウマを抱えており、ブランクはそんな彼女をワトソン君と呼んで、捜査を続ける。
嘘をつくと吐くマルタだが、事件の真相を知っていた。
あの夜、マルタはハーランと碁をしていたが、ハーランは負けそうになり、碁盤をひっくり返す。
暫くしてマルタはいつもの通り鎮静剤100mgをハーランに打ち、次いで微量のモルヒネを打とうとして、
薬瓶を見るとそこには鎮静剤とあった。
つまり、先に打ったのがモルヒネであり、安全な量をはるかに超える量だった。
マルタはもしもの時のために解毒剤を探したが見つからず、救急車を呼ぼうとして転倒する。
大きな音がしてジョニが様子を見に来たがハーランは碁盤を落としたと言ってごまかす。
騒ぎになれば不法滞在のマルタの母親のことがばれ強制送還される。
焦るマルタを諭し、ハーランは10分で死ぬというマルタの言葉を信じてこのまま死ぬことを選ぶ。
そしてばれないよう工作をマルタに指示、マルタが嘘で吐かないように事実の断片の説明をするよう指示した。
部屋の外で躊躇するマルタが「できない」と扉を開けた瞬間、ハーランは「私の望みだ」と言ってのどを掻き切り、絶命する。
パニックになりながらもマルタは指示通りに行動する。
それは、すぐに帰り、帰り際にそこにいるものに時間を聞くこと。
そして車を入り口の石像のわきに寄せて、裏からフェンスを上って隠し戸からハーランの部屋に行き、
ローブを着て階下に降りてから部屋に戻る。
そして再びフェンスを降りてそのまま家に帰れ、というものだった。
ほぼ指示通りにこなしたマルタだったが、3つ手違いがあった。
一つは、監視カメラを避けるために車を止めろと言われたのが石像の手前か後ろかわからせなくなってしまったこと。
2つ目はフェンスを上る際、足を滑らせてフェンスの一部を欠いてしまったこと。
最後はフェンスを降りた際に車いすのワネッタに見られ「また戻ったのかい、ヒュー」と言われたことだ。
マルタにはもう一つ心配事があった。
それは、注射をするために持っていた薬の入ったバッグがなくなっていたことだった。
ブランクは屋敷の監視カメラの記録も気になった。屋敷の管理人に監視カメラデータのコピーを取ってもらったが、
テープを受け取ったマルタは磁石をその上に置いてデータをダメにした。
暫くしてハーランの遺言書が開示されることになり、関係者一同が呼ばれた。
ランサムことヒューもその場にいた。
開示前にヒューが遺産相続から外れていると聞かされた一同はヒューをののしり馬鹿にする。
しかし、ハーランの遺言の内容はみんなの思惑と違っていた。
財産のすべて、現金預金だけでなく、土地建物から小説の管理、映画化権やドラマ化権などの権利のすべてを
マルタに一切合切譲るというものだった。
一同は激怒しマルタに罵詈雑言を浴びせる。
マルタはパニックってその場を離れるが車がエンスト。
焦るマルタをヒューが自分の車に乗せで逃げる。
レストランで一息ついたマルタ。
ヒューは静かに本当のことを放せと詰め寄り、ゲロを吐きたくないマルタは真相を話す。
ヒューはハーランに遺産をやらないと言われて腹が立ったが今は感謝している。
マルタの味方になり守る、という。
その日からうわさを聞き付けたマスコミがマルタの家に押し掛ける。
ウォルターらが遺産を放棄しろと迫ってくる。
メーガンも金がないと退学になると泣きついてくる。
そんな中、郵便物の中にハーランの検死報告書の一部のコピーに「お前のやったことはすべて知っている」と書かれたメモが。
書かれた住所はクリーニング店の跡地。
隣の美容院をすり抜け、裏からクリーニング店に入ると家政婦のフランが椅子に座らされていた。
その場の状況から見てモルヒネを打たれたのは明白だった。
倒れるフラン。人工呼吸をするマルタ。
そのころ、ブランクと刑事らは検視局の火事の知らせを受ける。
検視局は全焼、保管資料も焼けてしまい、ハーランの検死報告書も灰。
一方、マルタは現れたヒューとともに車で逃げ、張っていた警察に追われる。
逃げ切ったと思ったものの簡単に見つかり確保される。
全部を話すことにしたマルタ。
もし、マルタが殺害したことになれば、罪に問われることはもちろん、相続自体が無効になる。
ブランクはそれを了解したが、その前に屋敷に向かい、ワネッタに何か言いたいことはないかと尋ねた。
マルタが全員の前ですべてを告白しようとしたその時、ブランクが割って入り、「ハーランは自殺。事件は解決。」と言い放つ。
さらにブランクはヒューに向かって「なぜ捜査を依頼したのか」と聞く。
一同があっけにとられる中、ブランクは謎解きをして見せる。
ヒューはパーティでハーランに遺産はやらないと言われ、腹を立てて家を去った。
そしてパーティが続く中、そっと裏のフェンスから隠し戸を通ってハーランの部屋に入り、
マルタのバッグのモルヒネと鎮痛剤を入れ替え、解毒剤を抜き取ったのだ。
その際、ワネッタに見られており、マルタを見たワネッタは「また来たのか」と言ったのだ。
しかし、マルタは間違ってモルヒネの瓶に入った鎮静剤を注射した。
その後ヒューは薬を元に戻そうと屋敷を訪れたが、番犬に吠えられて失敗したので作戦を変え、
マルタの犯行を暴露し相続を無効にしようと考えた。
しかし、フランから検死報告のコピーを送られて計画が失敗だったことを知り、次の手を打つことにしたのだ。
フランはヒューがハーランの部屋に行くのを見て怪しいと思い、薬バッグを隠し、
検死報告書コピーを検視局で働く親戚から入手して、ヒューの悪事を見抜いた。
ヒューに脅しの手紙を送ったところ、ヒューはそれをマルタへの脅しに利用した。
検死をごまかすため放火して資料を燃やした後、フランにモルヒネを打って殺し、マルタの仕業に見せかけようとしたのだった。
ブランクの推理にヒューは憶測にすぎないと笑うが、そこにマルタに電話が入った。
マルタはフランが助かった、もう会話もできる状態と告げる。
ヒューは、じゃ殺人じゃなくて殺人未遂だ、そんなもの良い弁護士を雇えば何とでもなるとうそぶく。
その途端、マルタは思いっきりゲロ。
嘘をついた、電話はフランが死んだとの連絡だった。
図らずも自白したヒュー。
ヒューはもはやこれまでと飾ってあるナイフをもぎ取るとマルタの胸めがけてナイフを突き立てた。
しかし、それは刃が引っ込むおもちゃのナイフだった。
かくしてヒューは逮捕され連行された。
ハーランの財産を全て失った一同は、玄関先でヒューが連行されるのを見送り、マルタはバルコニーから一同を見下ろしていた。
リチャードはハーランが浮気をばらすと言っていたメモを探したがそれは白紙だった。
しかし、リンダはそれを見つけ、ハーランの仕掛けた懐かしい宝さがしごっこを思い出してライターの火を近づけると、
文字があぶり出され、リチャードの浮気はばれていた。
マルタはブランクがマルタを疑った理由を聞く。
ブランクはマルタのスニーカーについて一滴の血痕を指し、ハーランの血だろうと察しがついていたと明かすのだった。
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早々に事件の顛末の暴露があり、いったいこの先どうなるのかドキドキさせる。
ブランク(ブノア・ブラン)の語り口はポアロかホームズか。
自身、マルタをワトソン君と呼んでいたのでホームズ気取りかも。
マルタが看護師であることも医師であるワトソンになぞらえたか。
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その時は思わなかったが、後々腑に落ちない点が。
それは家政婦のフランが検死報告書からヒューの犯行を知ったこと。
検死報告書にはハーランは失血死とあったはずで、血液も調べたのであれば、
モルヒネなどの薬物は検出されなかったと書かれていたはずだ。
(だからこそ、マルタがモルヒネを打っていないと分かり、ヒューが検視局に火をつけた)
フランがヒューが秘かにハーランの部屋に入ったのを知っていたとしても、
仮にモルヒネと鎮静剤を入れ替えていたことに気づいていたとしても
検死報告上は問題が見つからなかったわけで、ヒューの仕業によってハーランが死んだのではないことは確か。
知っているとカマを掛けたにしても、齟齬なく行動の意図を知りえる理由にはならない。
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Wikiによれば、モルヒネの致死量は数グラムから数十グラムであり、100mgでは死なない。
また致死時間は数分から数時間でおそらくは投薬量と関連があると思われるので、10分も懐疑的にとらえざるを得ない。
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アナ・デ・アルマスは「ブレードランナー2049」のAIバーチャルアシスタント。
「スクランブル」ではクラシックカー泥棒の一味の一人。
本作は第92回アカデミー賞脚本賞にノミネートされた。
監督自身による製作脚本で批評家の評価も高い。
制作費(40M$)の割に高い興収(US:159M$)を上げ、続編の制作が開始された。
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